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若い女性への発症が多い甲状腺機能亢進症。
「バセドウ病」という名前の方が耳なじみがあるかもしれません。
ですが人間だけではなく、犬や猫が甲状腺機能亢進症にかかることもあります。
犬が甲状腺機能亢進症にかかることはまれですが、猫への発症は多く見られます。
中高齢の猫に多く、特に10才以上の猫では10匹に1匹がかかっていると言われるほどです。
甲状腺機能亢進症は、文字どおり甲状腺の機能が普通よりも強まってしまう病気です。
「うちの猫が最近、急に元気になってきた。」
こんな場合は、甲状腺機能亢進症にかかっているかもしれません。
甲状腺機能亢進症の詳細や、またどのように治療していくのかなどを解説していきます。
甲状腺機能亢進症は、甲状腺のはたらきが強まることで発症する病気です。
では甲状腺には、どのようなはたらきがあるのでしょうか。
まず甲状腺とは、動物のノドにある臓器です。
犬や猫、人間にも甲状腺はあります。
この甲状腺は脳の視床下部や下垂体などの部分から司令を受けて、「甲状腺ホルモン(T3、T4)」を分泌します。
動物が生きていく上で、甲状腺ホルモンは欠かせません。
甲状腺ホルモンは、全身の代謝を高めてくれます。
動物が脂肪や糖分からエネルギーを作り出せるのも、甲状腺ホルモンのはたらきによるものです。
しかし甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモンが分泌されすぎてしまい、全身にさまざまな影響が及んでしまいます。
甲状腺機能亢進症が犬に発症することはごくまれで、基本的には猫に見られる病気となります。
その症状は以下のようにさまざまです。
・落ち着きがなくなり、興奮しやすくなる
・水をたくさん飲みたがる
・体重が減少する
・夜中に大きな声で鳴く
・頻脈(心拍数の増加)
・毛並みが悪い、抜け毛が増える
・下痢
など
中でも体重の変化は、猫の甲状腺機能亢進症においてよく見られる症状です。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される影響で代謝が活発になり、普段以上にエネルギーが消費されるようになります。
そのため食べる量や運動量なども増えて、一見元気になったように見えます。
しかし病気が進行していくとからだが燃え尽きてしまい、だんだんと異常が現れてくるのです。
「最近はよく食べているのに痩せてきた」と飼い主さんが動物病院に猫を連れて行き、病気が発覚するケースも少なくありません。
そして体重が減少した猫において、多くの場合は脂肪ではなく筋肉が落ちることで引き起こされています。
治療をしても筋肉量が戻らないことがあり、しかも脂肪がつきやすい体質になることもあるので食事内容には注意しなくてはなりません。
なお猫の甲状腺機能亢進症は、一般的に8才以上になってから発症する病気です。
8才未満の猫に見られることはほとんどありません。
甲状腺機能亢進症を発症した猫の甲状腺には良性、あるいは悪性の腫瘍が見つかります。
他には細胞分裂が過剰になる「過形成」が起こり、甲状腺が肥大しているケースもあります。
いずれかの異常が引き金となって甲状腺ホルモンが分泌されすぎてしまい、甲状腺機能亢進症を発症するのです。
しかし甲状腺になぜこのような異常が起こるのか、その原因は明らかにされていません。
ただいくつかの仮説があり、ここでは「環境的な要因」と「遺伝的な要因」についてご紹介します。
まず環境的な要因についてですが、かつての甲状腺機能亢進症はまれな病気でした。
しかし1980年代頃からこの病気を発症する猫が急激に増え始め、近年では中高齢の猫に多い病気とまで言われています。
こうした時代による変化がペットフードが普及した時期と一致していることから、フードに含まれる何らかの成分が原因ではないかと考えられています。
またフードだけではなく土壌の中の成分、住宅建材に使用されている化学物質などが関わっている可能性もあります。
もう一方の遺伝的な要因ですが、甲状腺機能亢進症はシャム猫やバーミーズ、ヒマラヤンなどの猫種への発症が少ないです。
そのため、これらの猫種の遺伝子と甲状腺機能亢進症に何らかの関係があると考えられています。
"被毛が長い、あるいは色が濃い猫は甲状腺機能亢進症にかかりやすい"という説があります。
まず被毛と甲状腺機能亢進症には、どんな関係があるのでしょうか。
猫の体内には、アミノ酸の一種である「チロシン」があります。
チロシンは甲状腺ホルモンと「メラニン色素」、2つの物質の材料として使われているのです。
例えば被毛が黒い猫や長い猫は、その"被毛の色"を作るためにたくさんのメラニン色素が必要になります。
すると甲状腺ホルモンを作るために回されるチロシンの量が少なくなり、甲状腺は材料不足を補おうとして精一杯はたらきます。
ここにチロシンが補給されると、甲状腺がフル稼働しているため甲状腺ホルモンも大量に作られすぎてしまい、甲状腺機能亢進症を発症してしまうのです。
こうした仮説を整理すると、次のようになります。
被毛の色が濃い、長い猫
↓
大量のメラニン色素が必要になる
↓
甲状腺機能亢進症を発症しやすくなる
では、実際に猫の被毛と甲状腺機能亢進症には何らかの関係があるのでしょうか。
イギリスではこの仮説を確かめるため、健康な猫2625匹と甲状腺機能亢進症にかかった猫786匹を対象とした検証が行われました。
検証から分かった結果は以下の通りです。
猫の種類 | 発症リスク |
---|---|
黒猫 | 1 |
白猫 | 0.7 |
カラーポイント | 0.51 |
カラーポイントとはシャム猫にアメリカンショートヘア、アビシニアンなどをかけ合わせることで誕生した猫種となります。
シャム猫と同様に顔や手足、尻尾などの被毛の色がポイント的に濃くなっていることが特徴です。
被毛の色が濃い猫の方が甲状腺機能亢進症にかかりやすいのであれば、白猫の発症リスクが最も低くなるはずです。
しかしからだの一部分の色が濃いカラーポイントの方が、白猫よりもさらに発症リスクが低いという結果になりました。
そのため甲状腺機能亢進症の発症には、被毛の色や長さとはまた違った要因が関わっていると考えられています。
甲状腺機能亢進症の治療は「お薬の投与」「手術」「特別療法食」の3つに分かれます。
それぞれの治療について、順番に解説していきます。
お薬で治療する場合は、抗甲状腺薬を使用します。
代表的な抗甲状腺薬は「メチマゾール」というお薬です。
メチマゾールは甲状腺ホルモンの合成を邪魔することで、甲状腺機能亢進症を治療します。
お薬が効いているかを確かめるためには投与を始めてから2~4週間ほどの期間が必要です。
この時に体重や、血液中の甲状腺ホルモンの濃度を測定することでお薬の効き目を確認します。
ただしメチマゾールは副作用が比較的起こりやすく、投与した猫の2~3割ほどに食欲不振、嘔吐、かゆみなどの症状が見られることがあります。
また甲状腺機能亢進症を完治させることはできず、お薬の投与は基本的に一生続くことになります。
そのため副作用に耐えられない場合は、違う治療を行います。
ちなみに抗甲状腺薬には「プロピオチオウラジル」というお薬もあります。
しかしこちらはメチマゾールよりも副作用のリスクが高く、現在では使われることがほとんどありません。
外科手術では、甲状腺の切除が行われます。
お薬の投与とは違って甲状腺機能亢進症の完治が期待できる治療方法です。
ただしペットの健康状態や年齢によっては手術ができない場合もあることに注意しましょう。
また甲状腺を完全に切除してしまうと、今度は逆に甲状腺ホルモンが足りない状態になることもあります。
この時はお薬で不足した甲状腺ホルモンを補わなくてはなりません。
近年ではお薬の投与や外科手術だけでなく、食事療法という選択肢も生まれました。
「y/d」という処方食を与える方法になります。
y/dはヒルズというメーカーが製造販売を行っている、甲状腺ホルモンの材料になるヨウ素を制限したフードです。
副作用や体力の問題でお薬の投与・外科手術ができないペットでも、安全に甲状腺機能亢進症の治療を始められます。
しかしy/dを与えている間は他のフードを食べられない、そもそもy/dを食べない猫もいるという問題点もあります。
y/dは通販での購入も可能ですが、自己判断をせず獣医さんと相談した上でペットに与えるかを検討してください。
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